混ぜすぎていませんか?【撹拌のツボ 第2回】

「もっとしっかり混ぜてください」――実験の指導でよく使われる言葉です。しかし、撹拌の世界では「しっかり混ぜる=速く回す」とは限りません。回転数を上げれば上げるほど混合効率が上がる、というのは実は大きな誤解です。第2回は、「混ぜすぎ」が引き起こすトラブルと、目的に合った撹拌の「強さ」の決め方をお伝えします。

過剰な撹拌(NG)と適切な撹拌(OK)の比較イラスト

回転数を2倍にすると、動力は8倍になる

「あまり混ざらないから、回転数を上げよう」——日常的に行われるこの操作が、どれだけ大きなエネルギー変化を伴うかをご存じでしょうか。

乱流域での撹拌において、所要動力は回転数の3乗に比例します。つまり、回転数を2倍にすると、必要な動力は2の3乗=8倍になります。

回転数と所要動力の関係グラフ(P∝n³)― 回転数を2倍にすると動力は8倍

回転数の変化 所要動力の変化 伝熱効率の変化
1倍(基準) 1倍 1倍
1.5倍 3.4倍 1.3倍
2倍 8倍 1.6倍

たとえば、伝熱効率を1.3倍にしたいだけなのに、回転数を1.5倍にすると動力は3.4倍に跳ね上がります。回転数を上げることで得られる効果に対して、消費するエネルギーの増大は不釣り合いに大きいのです。

これは「速く回せば回すほど良い」という考えが、いかに非効率かを端的に示しています。

「混ぜすぎ」が引き起こす3つのトラブル

過剰な撹拌は、エネルギーの無駄だけでなく、実験の失敗や機器の損傷につながります。

事例1:共回り(供回り)— 速く回しているのに混ざらない

邪魔板(バッフル)がない容器で回転数を上げすぎると、液全体が撹拌翼と同じ角速度で回転してしまう「共回り(供回り)」が発生します。

共回りが起きた液は、あたかも固体のように一体となって回転しているだけです。流体各部の間に速度差(相対運動)が生じないため、混合に必要な剪断力を生み出すことができません。見た目には激しく回っているのに、実は全く混ざっていない——これが共回りの厄介なところです。

さらに、上下方向の循環も停滞するため、容器の底に沈殿した粉体が巻き上がらない、液面付近と底部で濃度差が残るといった問題も発生します。

事例2:コーニングとスロッシング — 液が暴れて溢れ出す

コーニング現象とスロッシング現象の比較イラスト

邪魔板がない容器で回転数を上げると、遠心力と重力のバランスにより液面中央が深く凹み、壁面側の液面が盛り上がる「コーニング現象」が発生します。さらに回転数を上げると液が容器外に溢れ出す事故につながります。

より深刻なのが「スロッシング現象」です。渦流が上下に激しく揺動し始めると、撹拌軸に対して非常に大きなアンバランス荷重がかかります。これにより軸が曲がったり、スタンドが倒れたりする危険があります。

共回り・コーニング・スロッシングはいずれも「回転数を上げすぎた」ことが直接の原因です。

事例3:ボルテックスによるエア巻き込み

ボルテックスによるエア巻き込み ― 泡立ち・酸化劣化・分析誤差の3つの問題

回転数が高すぎると、液面に深いボルテックス(渦)が形成され、渦の底部から空気が液中に巻き込まれます

エア巻き込みは以下の問題を引き起こします。

・泡立ち:液中に微細な気泡が分散し、均一な混合を妨げる。泡立ちやすい界面活性剤を含む系では特に深刻
・酸化劣化:酸素との接触面積が増大し、酸化に敏感な試料(油脂、樹脂、生体試料)の劣化が促進される
・評価への影響:粘度測定や分光分析において、気泡の存在が誤差の原因になる

「しっかり混ぜたはずなのに、結果がばらつく」——その原因がエアの巻き込みだった、というケースは少なくありません。

撹拌の「強さ」は目的で決まる

では、どのくらいの撹拌強度が適切なのでしょうか。答えは「目的による」です。

撹拌の目的 必要な強度 注意点
溶解・均一化 低〜中速 溶質が溶けきれば十分。過剰な剪断は不要
懸濁・固体分散 中速 粒子が沈降しない最低限の速度でOK。「浮遊限界速度」を超えれば良い
気液混合・ガス吸収 中〜高速 気泡の微細化が目的。ただし回しすぎるとフラッディング(翼周囲にガスが滞留)が発生
乳化・微細分散 高速(高剪断) 液滴を微細化するため高剪断が必要だが、過剰な剪断は乳化破壊(転相)の原因になる

特に注意が必要なのは乳化操作です。乳化は剪断力で液滴を細かくする操作ですが、ある限界を超えると逆に乳化が壊れる「転相」が起きることがあります。「混ぜれば混ぜるほど細かくなる」わけではないのです。

また、粘度比が大きく異なる液体同士を混合する場合、撹拌速度をむやみに上げても無次元混合時間(混ざるまでに翼を回す回数)がかえって増大し、エネルギーの浪費になるだけという実験結果も報告されています。

「ちょうど良い撹拌」を見つける3つのステップ

ステップ1:目的を明確にする
まず、自分が何のために撹拌しているのかを言語化しましょう。「溶かしたい」「粒子を浮遊させたい」「乳化させたい」——目的によって必要な撹拌強度は全く異なります。

ステップ2:低速から始めて徐々に上げる
撹拌条件を探るときは、必ず低速からスタートし、目的の状態が得られるまで少しずつ回転数を上げます。「とりあえず最大回転数」は、トラブルの温床です。

ステップ3:「混合の完了」を見極める
色の均一性、濁度、pH、温度分布など、混合が目的を達成したかどうかの判断基準を持ちましょう。判断基準があれば、「ここまで混ぜれば十分」というゴールが設定でき、過剰な撹拌を避けられます。

新東科学のワンポイントアドバイス

スリーワンモータ TEシリーズ(トルク計測機能付き撹拌機)

「ちょうど良い撹拌」を見つけるには、撹拌の状態を数値で把握することが有効です。

当社の「TEシリーズ」は、撹拌中のトルク(回転抵抗)をリアルタイムに表示・記録できます。撹拌が進んで液が均一になるとトルク値が安定するため、「混合が完了した」タイミングを客観的に判断できます。これにより、感覚頼みの「とりあえずもう少し回しておこう」から脱却できます。

また、全機種に搭載されている無段変速機能により、精密な速度制御が可能です。低速から高速まで、目的に合った「ちょうど良い回転数」を正確に設定できます。

次回予告:第3回「その翼、合っていますか?」では、撹拌翼(インペラ)の選び方を取り上げます。プロペラ翼、パドル翼、タービン翼、アンカー翼——形状ごとの得意・不得意と、粘度に応じた翼の選定ルールを解説します。

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