【撹拌のツボ 第1回】あなたの液、本当に知っていますか? ― 粘度から始める撹拌設計のスタートライン

「粘度はいくつですか?」――撹拌の相談を受けたとき、私たちが最初にお聞きする質問です。粘度を知らずに撹拌条件を決めることは、行き先を知らずに電車に乗るようなもの。第1回は、撹拌設計のスタートラインである「液の正体」を知ることから始めます。

粘度が異なる4つの液体(水・シャンプー・ハチミツ・ペースト)を撹拌棒でかき混ぜている比較イラスト

水とハチミツ、粘度は1万倍違う

皆さんが実験室で日々「混ぜている」液体は、いったいどのくらいの粘度でしょうか。

粘度の単位は Pa·s(パスカル秒)や mPa·s(ミリパスカル秒)で表されます。身近なもので比較してみましょう。

さまざまな物質の粘度スケール(対数目盛り)― 水からペーストまで

粘度域 代表的な物質 粘度の目安
低粘度 1 mPa·s
低粘度 トマトジュース 数十 mPa·s
中粘度 シャンプー・リンス 数百 mPa·s
中粘度 ケチャップ 約1 Pa·s
中〜高粘度 ハチミツ・味噌 数 Pa·s
高粘度 ハミガキ・ジャム 数十 Pa·s
高粘度 ソルダーペースト 約100 Pa·s
超高粘度 塗料・厚膜ペースト 数百 Pa·s

水が 1 mPa·s、ハチミツが数千 mPa·s(数 Pa·s)。両者の粘度差は約1万倍です。この差を無視して同じ条件で撹拌すれば、結果が変わるのは当然です。

「自分が混ぜている液は、この表のどこに位置するか?」を把握することが、撹拌設計の第一歩です。

粘度が変わる液体の存在 ―― ニュートン流体と非ニュートン流体

水をどれだけ激しくかき混ぜても、粘度は変わりません。このように、かき混ぜる速さ(剪断速度)に関係なく粘度が一定の液体を「ニュートン流体」と呼びます。

一方、実験室で扱う素材の多くは、混ぜ方によって粘度が変化します。

ニュートン流体・擬塑性流体・ダイラタント流体の粘度と剪断速度の関係グラフ

混ぜると柔らかくなる液体(シアシニング/擬塑性流体)

ケチャップのボトルを振ると出やすくなる現象がこれです。剪断速度が大きくなると粘度が下がる性質で、塗料、シャンプー、高分子溶液など、実験室で扱う素材の多くがこのタイプに該当します。

このタイプの液体は「最初は重いが、回し始めると軽くなる」ため、撹拌機の起動時に最も大きなトルクが必要になります。

「シアシニング」と「チキソトロピー」は違う

現場でよく混同されるのが、シアシニング(擬塑性)とチキソトロピーの違いです。

シアシニング(擬塑性)は、かき混ぜる速さによって粘度が変わる性質です。速く混ぜれば柔らかくなり、遅くすれば元に戻ります。速度に対する応答であり、瞬時に変化します。

チキソトロピーは、一定の速度でかき混ぜ続けたときに時間とともに粘度が下がっていく性質です。撹拌を止めると、時間をかけて元の粘度に回復します。インクや塗料、化粧品のクリームなどに多く見られます。

両者は併存することも多いため、「混ぜると柔らかくなる液体」に出会ったとき、それが速度依存なのか時間依存なのかを見極めることが、適切な撹拌条件を決める鍵になります。

混ぜると硬くなる液体(ダイラタント流体)

片栗粉を水に溶いたもの(コーンスターチスラリー)を強く握ると固くなる、あの現象です。剪断速度が大きくなると粘度が上がるという、直感に反する性質を持ちます。

この「混ぜると硬くなる」性質は、撹拌の現場で深刻なトラブルの原因になることがあります。

粘度を知らないと何が起きるか ―― 現場のトラブル事例

「とりあえず回せば混ざるだろう」――この考えが、以下のようなトラブルを引き起こします。

事例1:ダイラタント流体による軸の変形・破損

ダイラタント特性による過負荷で曲がった撹拌軸のイラスト

晶析(結晶化)操作中、均一だった溶液中に固体粒子が生成し始めたとき、液全体がダイラタント特性を示すことがあります。撹拌を続けると剪断速度の増大とともに粘度が急激に上昇し、翼にかかる抵抗が想定を大幅に超え、撹拌軸が曲がるトラブルに至るケースがあります。

「さっきまで普通に回っていたのに、突然負荷が跳ね上がった」——その原因は、操作中に液の性質が変わったことを想定していなかったことにあります。

なお、当社スリーワンモータの撹拌軸は、過大な負荷がかかった場合でも折れずに曲がる設計としています。軸が折損・飛散する事故を防ぐための安全思想です。

事例2:ワイセンベルク効果による液の這い上がり

粘弾性を持つ高分子溶液などに剪断を加えると、液体が撹拌軸を這い上がる「ワイセンベルク効果」が発生することがあります。軸とモーターが同軸(一直線)の構造では、這い上がった液体がモーター内部に侵入し、機器を破損させるリスクがあります。

ワイセンベルク効果 ― 通常の液体と粘弾性液体の比較図

当社スリーワンモータは、撹拌軸とモーターを直交配置とすることで、たとえ液体が軸を這い上がってもモーターに到達しにくい構造としています。

これらのトラブルに共通するのは、「撹拌する前に、液の性質を把握していなかった」という点です。

「粘度を測る」習慣が撹拌の成功率を変える

撹拌条件を決める前に、まず以下の3つを確認しましょう。

1. 静置状態での粘度はいくつか?
まずは基本。粘度計で液の粘度を測定し、先ほどの粘度目安表のどこに位置するかを把握します。

2. 非ニュートン流体か?
粘度が剪断速度によって変化するかどうかを確認します。これを知らないまま撹拌条件を決めると、想定外の負荷が撹拌機にかかるリスクがあります。

3. 操作中に液の性質は変化するか?
化学反応、温度変化、結晶の生成など、撹拌中に粘度が大きく変わる可能性がある場合は、その変化を見込んだ機器選定が必要です。

この3つを押さえるだけで、撹拌のトラブルの大半は未然に防ぐことができます。

新東科学のワンポイントアドバイス

スリーワンモータ BL-Safシリーズ製品写真

実験室での撹拌では、安全性が最も重要です。

当社の「スリーワンモータ」は、過酷な連続運転でもスパークが発生しないブラシレスモータを全機種に採用しています。万一、ダイラタント流体のように予期せぬ負荷変動が発生しても、スパークによる引火の心配がありません。

75年にわたる撹拌技術のノウハウと、国内シェアNo.1の信頼性で、皆様の安全な実験環境をお守りします。

次回予告:第2回「混ぜすぎていませんか?」では、「しっかり混ぜれば良い」という撹拌最大の誤解に切り込みます。過剰な撹拌がもたらす3つの失敗事例とともに、撹拌の「強さ」を目的に合わせる技術をお伝えします。

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